フィードバック 37年卒 佐藤 晟
蕪村の句に「燭の火を 燭にうつすや 春の夕」というのがあります。私の好きな句の一つでありますが、歳とともにその句意が変化してくるところが実に不思議な感じがします。現今では絶えて無くなった情景ではあります。(結婚披露宴でのキャンドルサービスに似ているそうです)が、講義をしている時あるいは実験の手ほどきの際などに、心の燭を写しかつ燭を受ける心像の様に思えてなりません。
古典的なルーロー(1829年生)の機械の定義「抵抗力のある物体の組み合わせであって、その各部はある限定された相対運動を行い、これによって自然のエネルギーをわれわれの欲する仕事に変ずるもの」へと変化してきたその背景を思う時、なにか大きな流れがあるような気がするのです。
ブランダイス大学(米)のD.ウォルツ博士は人工知能の権威ですが、なぜ人知を越えるコンピュータを研究するのかとの問いに、「有史以来、人間を苦しめてきた問題に対してなんらかの解答あるいはアイデアを提供してくれるかもしれないと期待しているのです。大きなお世話だという人もおりますが、あまりにも悲惨な現実になんのための科学かと思い悩むのです。」この強烈な意識にはさすがに圧倒される思いです。人々の生活向上の貢献するはずである機械やそのシステムが害を為したりあるいは逆に破壊されたりするのを見ることはやはり我々エンジニヤにとってもつらいことではあります。
間違いを繰り返しながら、努力を重ねさらに前進するしかないのかも知れません。どこへ前進するのか、どのように前進するのか、なぜ前進するのかを問わないままに一人ひとりがチョッピリ積み上げては消えて行きます。
原因があって結果が生じる、その結果をあらためて原因に戻す、いわゆる制御用語でフィードバックとは「従因至果、従果向因」なる仏語にも繋がっているように思います。なにかの縁でともに学んだ同窓の燭の火は、連綿と繋がりさらに広がり、巡りめぐって大きな華を咲かせ多くの同窓生にうまし果実をもたらすものと信じています。
そのフィードバックの最大の道具である同窓会名簿第五版が来年度発行される運びになっております。名簿発行委員会も発足し、いろいろと企画も検討されておりますが、その費用はすべて会員諸兄の同窓会費のみで充当されます。残念ながら財政的に厳しい状況にあり、本年度の同窓会総会の開催を延期せざるを得ないと本年一月の幹事会で決定されました。すばらしい名簿のために活力をフィードバックし得る最高の場である同窓会総会を一年といえども延期することはすこしばかり淋しい気がしますが、何卒御了解の上何分の御支援をたまり度く御連絡申し上げる次第です。
1986年3月25日 第4号より
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